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  名陵随想 「名古屋嬢」

貴船啓 【プロフィール】
貴船 啓
本名 伊澤慶一(高商21)。
CBCテレビ映画社前社長。
元CBC常務。
エッセイスト。
名古屋演劇ペンクラブ顧問。
 昔、新派の某幹部の酒間ばなしにこんなのがあった。
 「新派に限らず、巡業芝居の連中に名古屋出身の奥方が多いのを知ってますか」
 「いや知りません、何故ですか」
 「うん、第1に名古屋での芝居はねるのが早い、それだけ遊ぶ時間が多い。第2は名古屋の女は身持ちが固い、 やりくり上手、その上丈夫な子を生んでくれる」

 成程いわれるや全くだ。丈夫な子の件は尾張大根の上部に桜島大根があって安産型の典型だ。 その上三味線が判る、茶の湯を嗜なむ、嫁入り道具が多くてしまり屋、留守番の多い芝居者にはうってつけなのだそうだ。

 しかし、最近「名古屋嬢」なる新語ができた。行動、性格共に地味ながら外車をもち全身をブランド品で固め、 名古屋独得の喫茶店のモーニングセット(コーヒー以外にゆで卵、あんかけスパ、小倉トーストなどが無料でつく)のハシゴで生活を楽しむ。

 しかも今年は世界に通ずるセントレアの開港、万博の開催、4M+1デパートの改装合戦及び世界有名ブランド専門店の勢ぞろい、 東西専門店の大進出と、これまでの名古屋らしからぬ状景が現出した。名古屋嬢はねらいの的となった。

 考えてみるに、いったい名古屋は田舎なのか大都会なのか。御出身の竹下景子さんは 「名古屋は都会過ぎず田舎過ぎない、程のよさが気持ちいんです」とおっしゃる。うまい評言ですね。

 名古屋をネタにして“有名”にしてくれたのはタモリ君であるが、昔から日本国の本州は関東人と関西人2種類の評価しか無かった。 日本史中興の3偉人(名古屋まつりには3英傑行列がある)信長、秀吉、家康を生んだ中京地区は中京人という呼称があってもいはず。 かくれ中京人よ表に顔を出すべき時であるぞ。

 万博期間中金の鯱は地上へ下され柿木金助じゃないが触れられる、念の為。
 
(月刊なごや4月号より)